2026年6月18日
観劇の会・竹内 吉夫
写真撮影・平早 勉氏
3か月ぶりの「観劇の会」例会。「ドン.キホーテ池袋東口駅前店」入口で待ち合わせ、劇場へ向かう。
「昭和40年代に、池袋で小劇場演劇を鑑賞したことがありました。どこだったのか、今じゃもう分かりませんが」と、昭和42年ご卒業の石井伸二さん。「そういえばぼくも池袋は久しぶりですけれど、学生の頃は名画座があって、良く映画を観に来ました」と、昭和49年卒の筆者。
「ああ、『人世坐』とか『文芸坐』とかねえ」
そんな会話を交わしながら南池袋公園に突き当たり南に折れると、寺町の一角に、入口がモスグリーンに彩色された6階建ての近代的なビルが現れた。それが今日の演劇ホール、小劇場ビルの「シアターグリーン」なのだった。寺院に挟まれたこの施設、聞けば「地域文化を育てる」事を目的として、隣接する仙行寺さんが昭和43(1968)年に造り2005年に全面建て替えをはかったもので、今では東京一古い小劇場なのだそうである。われわれはその建物の中にある劇場のひとつ、「BOX in BOX THEATER」をめざす。
(追記:その後のリサーチで、石井さんがかつて訪れた池袋の小劇場が「池袋アートシアター」であり、それが「シアターグリーン」の前身であることが判明した)
今日の演目は「劇団俳小」公演、アイルランド演劇の『ビッグ・フェラー』。
1970年代初頭、ニューヨークのアイリッシュ・レストランで「ブラディ・サンデー」(北アイルランドのカトリック系非武装デモ隊がイギリス軍の発砲を受け、13人が死亡した事件)の追悼集会が開かれるところから、話は始まる。そして2001年の「9.11同時多発テロ」に至るまでのIRA(アイルランド解放軍)の30年。若い活動家たちが挫折と衰退に向かう様が描かれたコテコテの悲喜劇だ。原作リチャード・ビーン。翻訳の小田島恒志氏はシェークスピアの全訳(坪内逍遙に次いで二人目)で知られる小田島雄志氏の次男で、早稲田大学文学部OB、同大学教授である。
ちなみにタイトルの「ビッグ・フェラー」は通俗な英語で「デッカいアンチャン」の意味だそうで、身長181センチ、体重76キロの名優「いわいのふ健(けん)」氏(「劇団温泉ドラゴン」所属)が客演され、解放運動のカリスマ・リーダー、デイヴィッド・コステロを見事に演じ切った。

コステロ(ビッグ・フェラー)
裏切り、寝返り、欺瞞、絶望、狂気。理不尽な暴力、自分では抑え切れない怒り、確信してきたことへの疑念、殺戮、メンバーの粛正。歴史の渦に弄ばれ、ただただ確実に年老いてゆく青年たち。
「これは『ファウスト』の逆バージョン。魂を売って手に入れるのは、一生苦痛の日々だ」
「IRAに残りたいけれど、IRAのイヤなところひとつ挙げるとすれば『殺しちゃう』ことだな」
重いテーマの中に、思わず吹き出してしまうようなセリフを散りばめながら、「闘争」が活動家の青年たちの正気を喪失させて行った生き地獄の年月をさらけ出して見せる。終幕近く、活動家の一人ルエリ・オドリスコル(大川原直太)の恐ろしい高笑いが天井を続けて3度揺らす。もはや笑い飛ばせるものなど、何一つ残っていないのに。

オドリスコル

カレルマ
俳優さんたち、全員がハマリ役に思えた。皆、良かった。皆、大熱演だった。
極度に高いテンションが最初から最後までずーっと続いた舞台が終演となり、ぼくは客席を立ちロビーに出た。そこには今まさに演技を終えたばかりの俳優さんたちが、清々しい笑顔でずらりと並んでいる。そのひとりに声をかけた。
「渾身の演技でしたね。大貫禄でしたよ」
「ははは、そのために少し、補いをしました」
「え?何を?」
男優さんがシャツの裾をめくり上げ、腹巻きをぼくに見せながら笑う。
「これしていると、暑くて、暑くて」
何だか、風呂上がりみたいに爽やかな笑顔だった。
【参加者】石井伸二、竹内吉夫