いなほ随想
特  集

仏塔巡り歩る記


滝沢公夫(30法)



第1集>

連載第1回
序文
[仏塔の魅力]


五重塔・三重塔・多宝塔の魅力に取り付かれてから既に20年になる。その間、全国に500余り存在する塔のうち、270ばかりを回ったが、余命から考えて、全てを回ることは無理なので、今後は歴史のある木造塔を中心に回り続けたいと考えている。
青竜寺・五重塔(本州最北端の仏塔)
青森県青森市

★仏塔の魅力とはなんであろうか。一般的には次のようなことがあげられると思う。

・第一に、野山や町中を散策中に、遠くに望み、または近くに不意に現れる時の心のときめきや文学的アプローチの印象や感動がある。

・第二に、仏塔の全体的な形態、軒の出方や傾斜、下層から上層への逓減、軒下にある組物や各種の彫刻、塔身と先端部の相輪とのバランス等、建築学的・構造学的要素を観察する楽しみもある。

・第三に、本来、寺の中心的な建築物であった仏塔は、寺では最も信仰の対象として重要なものであり、建築した宮大工の心意気と祈りも痛感される点である。1,000年先まで見通して建築し、地震にも極めて強いことには頭が下がる。

ところで、仏塔の意義を考えてみると、もともとインドにおける釈迦の骨、すなわち仏舎利を祀ったスツーパ(日本では卒塔婆という言葉で残っている)を起源としており、これが中国に渡ってレンガ積みの塔や石の塔、或いは古来の楼閣建築と結合し、さらに朝鮮の、日本の塔の様式に近い石の塔を経て、日本に渡ってからは、豊富な木材を使った木造建築としての五重塔・三重塔、或いは聖武天皇時代の各国国分寺七重塔のような多層塔となったものと思われる。

また、平安時代の最澄・空海により開かれた天台・真言両宗を中心として、二重塔のような形をした多宝塔(これは全国に100余りある)も建立されるようになった。ただ、古来の木造の仏塔については、火災による焼失が多かったこともあり、特に終戦後に建築されたものには鉄筋コンクリート造りのものが多くなり、中にはガラス繊維入りセメント造りのものも見られるようになってきている。最近では、信仰の対象ではなく、金力の象徴としてのものも増えてきており、眉を顰められる面もある。

那古寺・多宝塔(県指定重要文化財) 性海寺・多宝塔(国指定重要文化財) 石山寺・多宝塔(国宝)
千葉県館山市 愛知県稲沢市 滋賀県大津市

仏塔のうち、国宝や国・都府県・市町村指定の重要文化財は、全体の半数程度となっており、うち国宝は1割弱となっている。建立時期をみると、江戸と昭和が3分の1づつとなっており、焼失しないで現存している最古のものは、奈良時代前期の白鳳時代における法隆寺五重塔と法起寺三重塔となっている。

薬師寺・東塔(国宝) 法隆寺・五重塔(国宝) 東寺・五重塔(国宝)
奈良市西ノ京町 奈良県生駒郡斑鳩町 京都市南区
室生寺・五重塔(国宝) 醍醐寺・五重塔(国宝) 長命寺・三重塔(国指定重要文化財)
奈良県室生村 京都市伏見区 滋賀県近江八幡市

宗派的には、仏塔を建てるのは密教が比較的多いため、真言宗が3分の1を占めて最も多い。また地域的には、近畿地方が3分の1を占めて一番多い。境内における配置は、本堂と塔が横に並んでいる、いわゆる法隆寺方式や、本堂と塔が縦に並んでいる四天王寺方式等がある一方、仏塔が本堂または回廊から離れた場所に出ていて、信仰の対象よりも、いわゆる装飾物的に建てられているものが、徐々に増加していきているという推移もみられる。

前山寺・三重塔(国指定重文) 真禅寺・三重塔(国指定重文) 法華経寺・五重塔(国指定重文)
長野県上田市 岐阜県垂井町 千葉県市川市

仏塔の見方、楽しみ方については、3つの事項を冒頭に記したが、私はどちらかというと、総てを総合的に見る考え方である。ただ、この点は人それぞれに異なって当然だ。しかし、インドで発祥した当初の考え方のように、仏舎利を祀ったスツーパの部分、即ち日本の塔の相輪といわれる本体構造物の上部に突き立っている棒状の部分が最も重要であることを忘れてはならないと思う。(09.3.9.投稿)

安楽寺・三重塔(県指定重文) 法用寺・三重塔(県重文) 光前寺・三重塔(県重文) 西方寺(定義如来)・五重塔
埼玉県吉見町 会津高田町 長野県駒ケ根市 宮城県仙台市



連載第2回

[仏塔巡りの楽しみ]

[東京編]

★仏塔巡りの方法や順序には、色々とあるが、要は各人の都合の良いやり方が最も長続きするものだと思う。ただ、私なりに考えると、住所に近い、便利なところから始めるのが、最も取り付きやすいのではなかろうか。

★その意味から、建築時期や文化財指定の有無にとらわれず、先ず東京から順次地方へと、500以上もある塔のうち、特に印象に残った塔を気ままにご紹介しようと思う。ただ、特に東京においては、文化財級のものは極めて少ないことをお断りしておきたい。

★なお、建築学的、宗教学的、歴史学的な専門分野での考察は極力省略し、私個人の美的、感性的な描写が中心となることをご了解戴きたい。また、五重塔、三重塔、多宝塔等の種類別も避けることにした。更に、単に塔という場合は、特に海外では仏教以外の各種の塔も含むため、仏塔という用語を使用させていただく。

◆地元小平の仏塔[泉蔵院・多宝塔](小平市大沼町2−670)

★西武新宿線の小平駅から、東京街道を東へ徒歩約20分、錦城高校の東隣りにあり、分かりやすい。広い境内は手入れの行き届いた樹木や草花が一杯で、武蔵野の風情が漂う。

泉蔵院・多宝塔

★入り口に簡素な小さい門があり、その右手にすぐ仏塔がある。表通りからも直接拝観できる親しみ易さがある。昭和58年の建立と新しいものであるが、適当に古色がついて感じが良い。仏塔の全体的なバランスも良くとれており、落ち着いた雰囲気だ。本体は総檜造りで、屋根は銅版葺きとなっている。

山門 不動明王 お地蔵さん

★境内には、素晴らしい不動明王像や各種の石塔・石像等のほか、心尽くしの庭園があり、一見の価値がある。塔とともにゆったりと雰囲気も楽しむことができる。

★もともとこの地は荒涼とした土地であったが、江戸中期に大変な苦労で開拓工事が行われ、この成就のため納経された経塚があつたそうだ。昭和になってこれが発掘され、先祖の多大な労苦を偲んで仏塔が建てられたもののようだ。この点本当に意義深い事業であったと思う。

★駐車場やトイレも完備しており、境内の草花の手入れ等各方面で温かい配慮があり、更に建設までの住民の強い祈りも感じられ、あまり有名ではないが地元の誇りにできる塔だと思う。




◆いつも賑わう仏塔[金剛寺(高幡不動)・五重塔](日野市高幡733)

★京王線または多摩モノレール高幡不動駅から2−3分という好立地にある。新年や紫陽花の時期の混雑は相当なもので、その他の時期も人波は絶えない。寺に近づくと、先方の高台に五重塔の雄姿が望め、何ともいえない素晴らしいアプローチだ。

金剛寺・五重塔

★国指定重文の堂々たる仁王門をくぐり、同じ重文の不動堂でお祈りをする。左手の石垣の上に五重塔が聳えている。昭和55年の建立と新しいが、鉄筋コンクリート造りながら木造塔に劣らない風格があり、高さ45メートルと極めて堂々としたものだ。適当に古色もついて、名塔といわれる日も近いことだろう。もともとこの寺は奈良時代の開基といわれ、江戸中期に火災で一切を失い、その後急速に堂塔の復旧が進められてきたもののようだ。

金剛寺・本堂

★丘陵地を擁した寺域は広大で、四季それぞれに、散策に写真撮影にと最適だが、特に紫陽花の群落は物凄く、その季節のカメラマンの犇く姿が印象的だ。特に塔を背景に取り入れた写真が人気のようだ。また、丘陵には弘法大師山内88ヶ所もある。境内の整備の行き届いていることや、僧侶・職員の対応の親切さで、一日ゆったりと文学的雰囲気にひたり、自然観察を楽しむのは、本当に有意義だと思う。


◆いつも賑やか外人が目立つ仏塔[浅草寺・五重塔](台東区浅草2−3−1)

★浅草は、いつ来ても混雑し、華やかな雰囲気に満ちており、外人の楽しげな姿も多く見られる。三社祭の勇壮な神輿も見ものだ。仁王門を入ると左手に、堂々たる五重塔が聳えている。昭和58年の建立で新しく、鉄筋コンクリート造りではあるが、一見木造に見え、下層から上層まで全体のバランスも大変良い。

浅草寺・五重塔
五重塔と淡島堂(手前) 仲見世から五重塔を望む

★この寺は、もともと推古天皇時代の開基で、源頼朝や徳川家の帰依で大きく発展したが、昭和20年の戦災で国宝の本堂・五重塔ともに焼失してしまった。しかし、今またこのように立派な仏塔が復元され、多くの観光客が見上げ、塔を背景に写真を撮っているのをみると、本当に良い時代になったと思う。なお、境内は広大で、浅草神社・淡島堂等見るべきものが多く、半日十分楽しむことができる。



連載第3回

[仏塔巡りの楽しみ]

[東京編]続き1

◆こんなところにも仏塔がある[椿山荘・三重塔](文京区関口2−10−8)

★地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩10分あまり、ここは結婚式場で有名な宴会場だ。このようなところに立派な仏塔があることは、多くの人は知らないであろう。この宴会場は自由に出入りができるが、庭園に出て散策していると、離れたところにこの塔はひっそりと建っている。この付近では殆ど人影を見ない。

三重塔 園内の石塔

★仏塔は全体にややずんどうな感じで、相輪が短い。ただ、大変楚々としていて気持ちが良い。もともとこの塔は広島県にあった室町時代のもので、これを椿山荘創業の藤田家が大正末に移築したものという。建立年代からいうと文化財級だが、移築に伴う改造がマイナスになっているようだ。


◆結婚式場の仏塔[日本閣・五重塔](八王子市鑓水町御殿山)

★ここは八王子と町田の中間の国道16号線にあり、交通の便は余り良くない。通称「御殿山日本閣」といわれる。立派な結婚式場付近を通り抜けると、良く手入れの行き届いた庭園に出る。この深い木立の中に仏塔がある。

日本閣・五重塔
園内から五重塔を望む

★仏塔は高さ14メートル、小振りではあるが、良く整っており、昭和49年の建立としては素晴らしい出来だ。しかも総て木造だという。ただ、木立が多く近寄らないと見えないので、アプローチは余り良くないようだ。


◆遊園地の仏塔[よみうりランド・多宝塔](稲城市矢野口3294)

★遊園地にある仏塔だ。京王線よみうりランド駅から、動く歩道に乗り、高台に登る。入場券売り場で、仏塔の拝観に来た旨告げると、無料で入場させてくれた。この多宝塔は、遊園地では最も高い場所にあり、見晴らしが大変良い。周囲は良く手入れされた庭園になっている。

よみうりランド・多宝塔

★仏塔は、良く整っているが、各所に破損があり、特に木部と相輪の痛みは早く何とかして欲しい感じだ。もともと桃山時代のものだが、藤原銀次郎が昭和39年に移築したものという。ただ、どこから来たのか、兵庫県とかいう説もあるが、一向に素性がはっきりしない謎の仏塔だ



連載第4回

[仏塔巡りの楽しみ]

[東京編]続き2

◆歴史と迫力ある仏塔[旧寛永寺・五重塔(国指定重文)] (台東区上野公園内<動物園内>) 

★上野駅から徒歩5分という良い立地に鎮座している。現在は、上野動物園の中にあり、拝観には入場料が必要。ただ、動物園周辺を歩き回れば、至る所で覗き見ることはできる。春の花見の際には、隣りの東照宮の参道は大変な賑わいとなるが、この参道と接しているため、桜の花の背景としての塔はなんとも素晴らしい。酔客の歌声が塔にこだまするようだ。                                                      

寛永寺・五重塔
(上野東照宮参道から写す)
寛永寺・五重塔


★改装しているためか、移築によるものか、全体に朱塗りで派手な感じはある。しかし、本瓦葺きで総体に堂々たる貫禄があり、バランスも良いので、見上げると迫ってくるものがある。もともとこの塔は江戸時代の寛永年間に建築され、上野東照宮のものだったが、明治維新の際、寛永寺のものとなり、更に昭和33年に東京都に譲渡されて、現在は動物園内にある、という経緯があるようだ。

★写真を撮るには、全景では動物園内が最もよいが、情緒深いのは、花見の季節の東照宮参道からのちらちら撮り、といえようか。



◆関東最古の五重塔[本門寺・五重塔(国指定重文)] (大田区池上1−1−1)

★東急池上線の池上駅から徒歩10分くらいのところにある。入口の橋のたもとに「南無妙法蓮華経」という石塔があり、何となく身が引き締まってくる。

★堂々たる門を入ると、今度は長い石段が続き、一寸した修行気分だ。上に着くと、何とも広大な境内で、木立の下は休憩場所としても良い。仏塔は右手に聳え建っている。高さ30メートル近くあるようで、素晴らしい重量感がある。ただ、下から上まで余り逓減がなく、一寸安定性には欠けるように思われた。相輪もやや短い。

本門寺・五重塔 本門寺・五重塔(正面)
本門寺・五重塔(初層正面)

★この仏塔は、江戸時代の慶長年間に建てられたもので、その後移築はされているが、関東地方では最も古い塔だ。その為か、信仰心の余りない私も、いつの間にか手を合せていた。★この仏塔は、江戸時代の慶長年間に建てられたもので、その後移築はされているが、関東地方では最も古い塔だ。その為か、信仰心の余りない私も、いつの間にか手を合せていた。


◆東京で最新・最大の多宝塔[三寶寺・多宝塔] (練馬区石神井台1−15−6)

★中央線荻窪駅から石神井公園行きのバスに乗り、JA東京あおば前で下車するとすぐだ。いかにも各種の工事中という雑然さもあるが、広大な境内の左手に、本当に巨大な塔が現れる。平成8年に完成したものというが、7メートル四方ほどの、驚くほどの規模だ。屋根は銅版葺きで総檜造りの建物。各種の装飾品がまばゆいくらいだ。
三寶寺・多宝塔
三寶寺・多宝塔(初層正面) 平和観音像


★もともとこの寺は真言宗で、寺歴は600年ほどあるようだが、相次ぐ火災や廃仏等で寺運が傾き、大正以降、歴代住職や寄進者の努力によって復旧が進み、現在では、武蔵野33観音霊場ほかの霊場となって、参詣者はかなり多い。散策にも最適だ。寺では、多宝塔と言わず「大塔」と称しているが、名に恥じない巨大な新しい塔だ。

以上で一応東京を終わり、その他の関東に移る予定だが、ここで東京の主要な塔を一覧表にしておきたい。


 [東京都の仏塔一覧](既に取り上げたものを除く)

<五重塔・三重塔>
寺      名 所  在  地
1.愛宕山・五重塔  西多摩郡奥多摩町氷川95
2.雲竜寺・五重塔  八王子市山田町1688
3.福正寺・五重塔 西多摩郡瑞穂町殿ヶ谷1129
4.光徳院・五重塔 中野区上高田5−18−3
5.総持寺・三重塔  足立区西新井1−15−1
6.東京都慰霊堂・三重塔  墨田区横綱2−3−25 
7.法恩寺・三重塔    墨田区太平1−26−1
8.乗船寺・三重塔    八王子市加住町1
9.道成寺・三重塔    練馬区石神井台1−16
10.春清寺・三重塔   三鷹市新川4丁目
11.永林寺・三重塔  八王子市下柚木4
12.応善寺・三重塔   国立市東2−2−4
13.本光寺・三重塔   品川区南品川4−2
14.宝仙寺・三重塔   中野区中央2−33−3
15.東禅寺・三重塔    港区高輪3−16−16
16.伝乗寺・五重塔    世田谷区尾山台2−10−3
17.宗建寺・三重塔    青梅市千ヶ瀬町6−734
18.清林寺・三重塔    文京区向丘2−35−3
19.円福寺・三重塔    清瀬市野塩3−51

<多宝塔・宝塔>
寺      名 所  在  地
1.護国寺・多宝塔     文京区大塚5−40−1
2.妙行寺多宝塔      豊島区西巣鴨4−8
3.拝島大師・多宝塔    昭島市拝島町1−6−15
4.満願寺・多宝塔     世田谷区等々力3−15−1
5.正覚院・多宝塔     練馬区豊玉南2−15−7
6.安楽寺・宝塔      青梅市成木1−583
7.本門寺・宝塔      大田区池上1−1−1
8.真成院・宝塔      新宿区若葉2−7−8
9.東禅寺・宝塔      港区高輪3−16−16
10.大聖院・宝塔     目黒区下目黒3−1−3
11.乗蓮寺・宝塔     板橋区赤塚5−28−3
12.本光寺・宝塔     品川区南品川4−2
13.淡島堂・宝塔     台東区浅草2−3−1
14.新井薬師・二重塔   中野区新井5−3−5
15.安養院・多宝塔    板橋区東新町2−30−23
16.東長寺・多宝塔    新宿区四谷4−34
17.梅窓院・宝塔     港区南青山2−26−38
18.増上寺・宝塔     港区芝公園4−7−35
19.明治寺・宝塔     中野区沼袋2−28−20
20.善立寺・宝塔     足立区梅田1−26−10
21.立正佼成会・宝塔   杉並区和田2−11−1
22.室泉寺・宝塔     渋谷区東3−8−16


連載第5回

[仏塔巡りの楽しみ]

 
[神奈川県編]

◆カメラマンに定評[三渓園・三重塔(国指定重文)](横浜市中区本牧三之谷293) 


★行き方にはいろいろあるが、横浜駅からバスで三渓園に下車すれば5分くらいだ。入り口に近づくに従って、胸が躍ってくる。入場券には、外苑のみと内苑共通と2種類がある。

左右が太い木柱の門を入ると、左手すぐに大きい池があり、遥か小高い丘の上に佛塔が望める。池の周辺からの塔を取り込んだ眺めは最高で、多くのカメラマンや女性群たちが、撮影に取り付かれているようだ。花菖蒲の季節には、特に池と塔とのバランスが良く、浮かぶ小舟も情趣深い。桜の季節も、花見をかねて最高だ。

大池から三重塔を望む

★池の淵を左に半周りすると、佛塔に達する丘への上り口がある。やや急な坂道を、息を切らしながら5分ほど登ると、佛塔の正面に出る。近くで見ると、本当に堂々たるものだ。本瓦葺きで、本体のバランスも良く、どっしりとしている。三重塔としては関東で最古のもののようだ。

旧燈明寺・三重塔

★もともとこの佛塔は室町時代のもので、京都の加茂町の燈明寺にあったものを、貿易商の原三渓が大正年間に移築したものという。内苑に入ると、臨春閣などの重文の建物が5棟もあり、回遊するのは本当に楽しい。ここは、佛塔は勿論だが、全体をゆったりと周遊するのに向いており、一日をしっかり楽しみたいところだ。


◆川崎大師として有名[平間寺・五重塔](川崎市川崎区大師町4−48)

★京浜急行の大師駅から10分くらいのところにある。参道両側の土産物店は、煎餅・飴など多様な縁起物や商品を扱い、掛け声や調理の音を楽しみながら進むと、大きな山門があり、ここに入ると急に心が清められてくるようだ。

★仏塔は山門を入ってすぐ左手にある。異様な八角の塔だ。このような塔は、ほかには長野の安楽寺・三重塔しかない。実に鮮やかな朱塗りで、天を突き刺すように聳えている。高さは30メートルほどあるようだ。

平間寺・五重塔
平間寺・本堂 境内の祈りと平和像

★もともとこの寺は真言宗智山派の古寺で、平安時代の開基という。成田山新勝寺、高尾山薬王院と並び、関東三山の一つだ。戦災で総て焼失し、佛塔は昭和59年に、弘法大師御遠忌を記念して建立されたそうだ。

★鉄筋コンクリートの塔ではあるが、派手な反面、何とも言われぬ落ち着きも感じられる。正月に来た時は、延々たる行列にも拘わらず人々の表情は安らかで、新しいながら風格のある佛塔に育っている感じであった。


連載第6回

[仏塔巡りの楽しみ]

[神奈川県編]続き

◆深山幽谷にある仏塔 [最乗寺・多宝塔(市指定重文)](南足柄市大雄町1157)

★小田急大雄山線の大雄山駅からバスで行く。山内に入って行くと、次第に霊気が漂ってくる。寺の通称「道了尊」で下車するとすぐだ。仁王門から入ると、参道は巨大な杉の大木に覆われ、深山に踏み入れた感覚となる。境内は極めて広大、荘厳で、堂塔も散在して巨刹という名に恥じない寺だ。

最乗寺の参道

★仏塔は大木の林の中にあって、見上げるのに苦労する。ただ、実にどっしりとした大型の仏塔だ。本体の構造も、専門的には分からないが、なかなか複雑に出来ているように思われる。

最乗寺・多宝塔

★この寺は、鎌倉時代に創建された古刹で、関東36不動霊場のひとつにもなっている。ただ、相次ぐ火災で殆どの堂塔は焼失し、古いもので残っているのはこの多宝塔くらいのものだ。曹洞宗の寺としての格式は、永平寺、総持寺に次いで高いといわれる。末寺も数千に及ぶらしい。寺名よりも「道了尊」の名のほうが有名だ。後ろ髪を引かれるような思いで仏塔をあとにする。木立に遮られて、もう仏塔は見えない。霊気を全身に感じながら下山した。

★やや駆け足で神奈川県を終わり、千葉県に移る。その前に、神奈川県内のその他の仏塔を一覧表にしておく。

 [神奈川県の仏塔一覧](既に取り上げたものを除く)

<七重塔・五重塔・三重塔・二重塔・多宝塔>

寺      名 所  在  地
1.龍口寺・五重塔    藤沢市片瀬3−13−37 
2.香林寺・五重塔     川崎市麻生区細山3−9−1
3.泉龍寺・三重塔    相模原市上鶴間235
4.久里浜霊園・五重塔  横須賀市長澤1159
5.海老名市・七重塔    海老名市中央1−5−1
6.法船寺・五重塔     小田原市酒匂2−35−22
7.大楽寺・三重塔    川崎市中原区木月1492
8.浄発願寺・三重塔    伊勢原市日向1816
9.長寿寺・多宝塔     鎌倉市山ノ内1503
10.興禅寺。多宝塔    横浜市北区高田町1799
11.本蓮寺・多宝塔    藤沢市片瀬3−4−41
12.孝道山本仏殿・二重塔  横浜市神奈川区鳥越38



連載第7回

[仏塔巡りの楽しみ]
[千葉県編]

◆ほっそりと背の高い仏塔 [法華経寺・五重塔(国指定重文)] (市川市中山町)

★総武線の下総中山駅または京成線京成中山駅から徒歩10分くらいのところにあり便利は良い。門前町のような町並みを過ぎると、大きな山門に至る。山門を入ると、広大な境内に巨木が林立し、その中に多数の伽藍が散在していて、大寺院の雰囲気に浸る。

法華経寺・山門

★仏塔は山門の正面にあって、極めて目立つ存在だ。先ず感じるのは、いかにもほっそりとしていて、下から上まで殆ど逓減のない点だ。高さも30メートルくらいはあるようで、大変のびやかだ。色は朱色のくすんだ感じで、総体的に装飾物が少ない簡素な感覚を受ける。この仏塔は江戸時代前期のものだが、同時代では装飾過剰なものが多い中で異色の存在だと思われる。

法華経寺・五重塔

★この寺は日蓮宗の古刹で、創建は鎌倉時代に遡る。国宝の「立正安国論」や数々の重文の古文書を所蔵する、素晴らしい寺だ。仏塔は、旧法では国宝であったようで、千葉のこの地にこのような仏塔が存在することに大きな感慨を抱き、名残惜しく山門を後にした。




◆極めて華麗な仏塔[新勝寺(成田不動)・三重塔(国指定重文)](成田市成田1)

★JRまたは京成の成田駅からだらだら道を下って行くと、両側には、漬物、羊羹、鰻等各種の土産物店が並んでいる。中にはハイカラなガラス細工店もある。楽しみながら10分ほど行くと、左手に堂々たる煌びやかな山門がある。近年建立されたばかりという。心が躍ってくる。

新勝寺・山門

★山門を入り石段を登ると、広大な境内に各種の建造物がひしめき、散在している。大規模な本堂の右手に、目指す仏塔が鎮座している。先ず感じるのは、いかにも装飾過大で煌びやかという点だ。この仏塔は江戸時代後期のもので、同時代に共通の特色として、華美な点があげられるわけだ。さまざまな彫刻も建物各所にちりばめられている。特に龍や羅漢の彫刻が目立つ。高さは25メートル程度で特に大きくはない。

新勝寺・三重塔

三重塔軒裏の組物と極彩色の装飾

★この寺は、通称の「成田山」または「成田不動」として有名で、本尊の不動明王は平安時代に遡り、現在地での開基も江戸初期のようだ。参詣者は年間絶えることはなく、特に正月の雑踏は物凄い。全国の参詣者数順位は明治神宮に次いで二番だと言う。江戸時代からの庶民の信仰で、現在も隆盛の一途にあるように思われる。

新勝寺・大塔(多宝塔)

★境内の多数ある重文の建築物を眺めながら進むと、一番奥に「大塔」が鎮座している。昭和59年に完成した、鉄筋コンクリートの大規模なもので、多宝塔ながら内部は5階建ての構造になっている。有難味はないが、実に堂々たるもので荘厳さもある。この寺は本当に見所が多く、一日じっくりと楽しむことができる。しかし、私としては煌びやかな三重塔が最も忘れ難い。


連載第8回

[仏塔巡りの楽しみ]

[千葉県編]続き

◆古代に栄えた土地の仏塔[観音教寺(芝山仁王尊)・三重塔(県指定重文)]
(山武郡芝山町芝山298)

★JRまたは京成の成田駅からバスで30分ばかりのところにある。足場はかなり悪いが、苦労して行くだけの価値はある仏塔だ。立派な仁王門を入ると、境内には堂塔が犇き、古木の群と相俟って、何ともいえない古寺の雰囲気が漂ってくる。交通の便の悪いこの農村地区に、こんな素晴らしい寺があることは大変な驚きだ。江戸時代から、家内安全を祈念する庶民の信仰は絶大であったようで、これが今でも息づいている。

観音教寺・三重塔

★仏塔は境内の一番奥の右手にあり、高さは25メートルばかりの堂々たるものだ。簡素ながら細部には彫刻等もあり、全体にバランスの良くとれた仏塔と言えよう。江戸時代末期の仏塔としては、余り派手さはなく、安心できる。

観音教寺・三重塔

★この寺は、奈良時代からの古刹で、古代はかなり開けた土地であったらしく、近くに古墳もあり、隣りには「はにわ博物館」もあって一見の価値がある。ただ、現在は成田空港近くのため、飛行機の爆音に悩まされる土地柄となっているのが残念だ。帰路にバスに乗ろうと思ったところ、午後3時には終バスがなくなり、仕方なくタクシーを呼んで成田駅に戻ることになった。



◆農村の古刹[石堂寺・多宝塔(国指定重文)](阿波郡丸山町石堂301)

★JR館山駅からバスで40分と、不便な農村地帯にある。ただ、この地は南房総最古の霊地といわれ、単なる田舎とは異なる感じだ。境内は本堂など重文の建物もあり、ほどほどの広さで、古刹の風格もある。仏塔は中くらいの規模で、屋根は銅版葺き。比較的簡素な造りで好感が持てる。室町時代に土地の豪族の寄進で建立された。

石堂寺・山門
石堂寺・多宝塔

★もともとこの寺は奈良時代の建立だそうで、過去火災に遭ったものの里見氏等の帰依もあり、古刹の風格は綿々と受け継がれている。現在、安房国観音霊場のひとつとなっている。境内の、ほかの各種の重文の建物を拝観したり、ゆったりと過ごしたい農村の安らかな仏塔だ。



◆日蓮聖人誕生地の[誕生寺・宝塔](安房郡天津小湊町小湊183)

★JR安房小湊駅から徒歩20分程度、海岸沿いにある。国道から小路に入ると、旅館や土産物店が犇いており、日蓮聖人の誕生地だけに、観光や参詣のための客で大変な賑わいだ。

★境内は大変広大で、いかにも大寺のたたずまいである。堂塔もかなり多い。日蓮を開山とする古刹だが、相次ぐ火災で殆どの建物は焼失し、古いものは、祖師堂と仁王門くらいだ。

誕生寺・宝塔

★ここの宝塔(一重塔ともいえる最も簡素なもの)は、独立して建築されておらず、祖師堂の裏にくっついて建っている。表から見ると見当たらず、裏に回って初めて対面することになる。ベージュ色の砂岩を使った独特な仏塔で、高さは20メートル余りの巨大なものだ。構造は簡素であるが、総体に安定感がある。

★宝物館もゆっくり見て回りたいものだ。国宝の「日蓮聖人御筆跡」もあるが、これは複製品となっている。穏やかな房総の海と広大な寺を同時に眺めながら、満ち足りた気分で駅に向かった。 



連載第9回

[仏塔巡りの楽しみ]


[千葉県編]続き

◆坂東札所結願寺[那古寺(那古観音)・多宝塔(県指定重文)](館山市那古1125)


★館山駅からバスで10分程度、那古で下車するとすぐだ。ここは館山湾を一望に収める山の中腹にある。本当に景色の良さは抜群だ。緩やかな坂を登り、納経所の前から仁王門を潜ると、各種の建物があり、一番奥に仏塔がある。バランスの良くとれた、美しい仏塔だ。非常に精巧に造られており、各所に色々な彫刻も見られる。龍などもある。

那古寺・多宝塔(県指定重要文化財)

★この仏塔は、江戸時代後期のものといわれ、内部には大日如来が安置され、また、寺内の観音堂には国指定重文の千手観音像もある、素晴らしい寺だ。寺の創建は奈良時代に遡り、途中大地震等で壊滅の危機もあったが、里見氏や徳川幕府の支援もあって隆盛を誇ったようだ。今はそのような勢いはないが、多くの文化財も承継され、多くの信者に支えられて、安定した発展が見られる。

★更に、最も特筆すべきは、この寺が坂東33ヶ所観音霊場の第33番札所、結願寺であることだ。苦労して札所を巡り終わった、喜びと充実感の漲る寺ということが出来よう。

坂東33観音霊場納経帳 坂東33観音霊場・巡礼終了証

★私も、西国33ヶ所、秩父34ヶ所とともに坂東33ヶ所を2回づつ回り終えたのは、平成5年であった。それ以降16年を経過し、更に3回目を目指していたが、未だに実行出来ないでいる。ただ、ここ那古寺での結願の感動は未だ忘れられない。特に多宝塔の美しさと荘厳さはしっかりと記憶に留めている。出来ればもう一度対面したいものだ。

★以上で一応千葉県を終わり、次は埼玉県に移りたい。ここで、今回紹介出来なかった千葉県の仏塔を列記しておきたい。

[千葉県の仏塔一覧](既に取り上げたものを除く)

<五重塔・三重塔・多宝塔・宝塔>
寺      名 所  在  地
1.東海寺・五重塔  柏市布施
2.本土寺・五重塔    松戸市平賀63
3.阿弥陀寺・三重塔    千葉市緑区高田町1785
4.新勝寺(成田不動)・多宝塔(大塔)   成田市成田1
5.光明寺・多宝塔    船橋市飯山満3−1373
6.佛母寺・宝塔    富津市田倉942−13


    
連載第10回

[仏塔巡りの楽しみ]

[埼玉県編]

◆坂東33観音霊場のひとつ[安楽寺・三重塔(県指定重文)](比企郡吉見町御所374)


★ここはやや不便な場所にあり、バスならば、東上線東松山駅またはJR鴻巣駅で乗車し、久保田で下車、すぐのところにある。タクシーを利用するのが最も簡単だ。近くには、吉見百穴という古墳の跡があり、こちらは観光客が多い。

★長い参道を行くと、厄除け団子の店が並び、団体客が楽しんでいる。前方の木立越しに仏塔がちらりと見え、何ともいえないアプローチだ。仁王門を入ると石段があり、その上の境内には、本堂、観音堂、大仏等が散在し、古寺の風情を醸し出している。

安楽寺本堂と境内 境内の十三重石塔

★仏塔は一番奥の右手に美しくたたずんでいる。江戸時代初期の建立というが、この時代の特徴である華美さはなく、朱塗り、銅板葺きながら、比較的簡素で安定性の感じられる仏塔だ。

五重塔 軒下・組物

★この寺は、平安時代初期の開基で、各時代の権力者の帰依を受け、特に徳川幕府の時代には顕著な発展を見せたようだ。坂東33観音霊場11番札所として、年間通して参詣者は多く、不便な地ながら、この付近はある程度のさざめきが満ちている。境内から出て、仏塔のちらちらと見える道を振り返りながら帰る時、本当に心に安らぎを与えてくれるのだ。



◆可愛らしい仏塔[成就院・三重塔(県指定重文)](行田市長野7618)

★この仏塔へのアクセスも大変不便で、且つ分かりにくいところにある。バスはなく、秩父鉄道東行田駅から徒歩30分くらい、またはJR鴻巣駅から「さきたま古墳群」を見ながらタクシーを利用するのがいい。

★小さな山門を入って左手に仏塔がある。高さ10メートルばかりの小さな、いかにも可愛い仏塔だ。黒と朱の二色塗りで、相輪は立派だ。地元の専門外の大工が造ったものといわれ、通常の仏塔とはかなり色々な部分の構造が異なっているようだ。

成就院・三重塔 成就院・三重塔

★江戸時代中期の建立だが、このような歴史ある仏塔が、このような不便な農村地帯に存在することに感動を覚え、帰途についた。




◆小江戸の名所[川越大師(喜多院)・多宝塔(県指定重文)](川越市小仙波町1−20−1)

★西武新宿線本川越駅で下車、徒歩10分程度のところにある。途中は、蔵造りの城下町を楽しむ人々で常に賑わい、特に秋の川越祭は最高だ。駄菓子屋横丁もなかなか風情があり、時の鐘や貴重な建造物、民族芸能等多くの見所がある。

川越大師・多宝塔

★仏塔は境内を入った広場の右手にある。本瓦葺きで、華麗ながら落ち着きがあり、名塔ということが出来よう。内部には釈迦如来等の坐像も安置されている。江戸時代初期の建立で、もともと都内の白山神社付近にあったが、何回かの移築で、昭和50年現在地に復元されたものという。

境内の五百羅漢 庭園

★この寺は、奈良時代の創建で、以降各時代の権力者により保護され、特に徳川幕府は手厚い保護で、寛永年間の火災のあと、書院、客殿等を江戸城から移築したという。将軍家光誕生の間や春日の局化粧の間等もあり、国指定重文の建物は多い。五百羅漢の石造も愉快だ。色々なものをゆっくり見て回り、楽しい気分で駅に向かった。

 

連載第11回

[仏塔巡りの楽しみ]

[埼玉県]続き

◆町民の得難い宝[歓喜院(妻沼(めぬま)聖天)・多宝塔](大里郡妻沼町1511)

★秩父鉄道妻沼駅から余り遠くないところにある。地元の人の信仰は大したもので、町の宝という感がする。

歓喜院・山門

★境内は巨大な老木に覆われ、独特の雰囲気に包まれている。仏塔は本殿右手の小さな橋を渡った正面、小高い丘の上にあり、良く目立つ。総体にどっしりとした、豪壮な感じだ。寺ではこの多宝塔を、平和を祈念するための平和塔であるとしている。どのように感じようが勝手だが、私は、民衆の厄除けを祈る対象ではないかと感じた。

歓喜院・多宝塔

★しかし、この仏塔は昭和33年建立と新しいものだ。ただ相当に古色がついて、貫禄がある。境内の欅を使用して信者が建立したようで、立派だ。屋根は銅板葺きで、相輪は多層塔と同じように本格的だ。

★この寺は平安時代の開基で、歓喜天の奉納により民衆の信仰を集めたが、その後の火災で、江戸時代中期に現在の本堂等が再建されたようだ。ちなみに、本堂と歓喜天は国指定重文となっている。ここは妻沼町の宝であり、厚い信仰と憩いの場であると強く感じた。例大祭や節分、初詣には大変な混雑となるそうだ。



◆与野新八景の大塔[円乗院・多宝塔](与野市本町1−13−10)

★JR与野本町駅から10分足らずのところにある。仏塔を正面に望む商店街から仁王門を潜ると、境内は良く手入れされて清潔で、案内板も親切だ。

円乗院・多宝塔を望む

★多宝塔は朱塗りで、高さ30メートルと巨大なものだ。屋根は本瓦葺きで、本体は鉄筋と木造を混合して造られている。特に上層部分は木のぬくもりが感じられる。寺では、日本三大塔のひとつとして胸を張っている。ほかの二つは、高野山と根来寺だそうだ。

円乗院・多宝塔

★この寺は平安時代の開基で、その後幾多の変遷を経て、徳川幕府の支援もあったが、更に火災と復旧が相次ぎ、この間かなりの経緯があるようだ。現在の本堂は大正時代に再建されたものという。ただ、現在ではかなり隆盛を取り戻しており、与野市の新八景に選ばれる等、市民の信仰と安らぎの拠点となっているようだ。




◆本殿の無い神社[金鑚(かなさな)神社・多宝塔(国指定重文)](児玉郡神川町二宮)

★JR児玉駅からかなり西に入り、不便な地にある。薄暗い参道を登って行くと、相当に古い感じの仏塔があるが、木立に覆われて本当に目立たない。

金鑚神社の鳥居を望む

★多宝塔は室町時代の建立で、地方色の強い古塔だ。屋根は柿葺きで、相輪は一部が破損している。神社に仏塔がある神仏習合時代のもので、歴史的建造物としての価値は高いものと思われる。

金鑚神社・多宝塔

★この寺は、日本武尊の時代の創建といわれ、以降各時代の権力者の支援があったが、特に徳川幕府の帰依により、大いに栄えたという。本殿は無く、背後の山がご神体となっており、この形態は奈良の大神神社と長野の諏訪大社だけだ。旧官幣中社でもあり、武蔵二の宮と称されたこともある由緒深い古社と言えよう。

★兎に角、色々な面で実に珍しい仏塔であり、感慨深く帰途についた。



連載第12回

[仏塔巡りの楽しみ]

[埼玉県]続き


◆西武球場近くの古塔[不動寺(狭山不動)・第一多宝塔(東塔)(県指定重文)](所沢市上山口2227)

★西武山口線の西武球場前駅を下車すると、すぐ近くにある。当地では近くの山口観音が有名で、影に隠れた格好だが、こちらの寺の方が堂塔の価値は高い。西武創立の功労者、故堤康次郎氏が全国から古建築物を収集してユネスコ村に移築していたが、これらの文化財を広い境内に配置している。既に全体に風格ある寺域を形成しているようだ。本堂は京都の東本願寺から移築したものという。

★東塔は本堂の右手にあるが、大変優美でゆったりとしている。本瓦葺きで、本体の形態は常識的だ。もともと大阪高槻市の畑山神社に桃山時代建立されたものといわれ、これを堤氏が昭和36年に移築したとのことだ。昭和38年には県指定重文に指定されている。

不動寺・第一多宝塔〈東塔)

★境内には説明板も充実し、全体的に親切だ。ここにはもうひとつ、第二多宝塔もあるが、別記したい。なお、寺は昭和45年に法人格を得て開山した新しいものだ。



◆第一塔と同じ境内[不動寺(狭山不動)・多宝塔(第二塔)](所沢市上山口2227)

★第二塔は、第一塔〈東塔)と同じ境内にある。第一塔と逆に、本堂の前を左手に坂を進むと一番奥の裏門近くだ。第一塔と規模は同じで、全体にややどっしりした、膨らんだ形となっている。屋根は大きい本瓦葺きで、相輪は大きく目立つ。坂から見る角度にもよるのであろう。

不動寺・第二多宝塔

★この仏塔は大変古く、室町時代に兵庫県東条町の椅鹿寺に建立されたものという。これを堤氏が昭和39年に移築したものだ。第一塔が重文に指定されているのに、この塔が指定されていないのが不思議だ。専門家の眼では、細かい構造や保存状態に差異があるのだろう。

★境内に三つある山門は、何れも国指定重文となっており、堤氏の金力は物凄いと思う。いずれにしても、西武球場近くにこのような歴史ある名塔があることには驚かされる。ユネスコ村や多摩湖、狭山湖とかねて、一日楽しむのに最適だ。

★以上で埼玉県を終了し、茨城県に移りたい。ここで埼玉県の塔一覧を掲げておく。

[埼玉県の仏塔一覧](既に取り上げたものを除く)

<五層塔・三重塔・宝塔>

寺     社     名 所    在    地
1.西福寺・三重塔 

川口市西立野420

2.新座市営霊園・三重塔   新座市新塚5061−13
3.鳥居観音・三重塔  入間郡名栗村上名栗3196
4.長徳寺・三重塔 

川口市芝6303

5.青葉園・三重塔

大宮市三橋5−934

6.三学院・三重塔  

蕨市北町3−2−4

7.放光寺(山口観音)・五層塔

所沢市上山口2203

8.慈光寺・宝塔 比企郡都幾川村西平386

    

連載第13回からは第2集>をご覧下さい。 仏塔巡り歩る記

♪BGM:Chopin[Nocturne 8]arranged by Pian♪

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