★昨年(2013年)、北アルプスの素晴らしい雪景色を堪能したが、今年(2014年)も是非あの感激に浸りたいと信濃大町で「千年の森自然学校」の代表を務める朝重孝治さんにお願いして再び黒沢尾根をガイドしてもらうことになった。
★今年は2月の14、15日に大雪が降って東京でも交通が麻痺し甲府盆地は1m以上の積雪で農業用ハウスが押しつぶされる等各地に被害が相次ぎその後も天候は全く予断を許さない。例年だと3月に入れば晴天率は髙くなるというので3月10日~12日の予定で宿泊その他の手配を依頼したが、気象の異常状態は3月に入っても安定せず、天気予報は前日の予報でさえ当てにならないまま当日を迎えることになった。
★今回の参加者は5名(男3、女2)、新宿発7時30分のあずさ3号で信濃大町へ向かう。天候は曇り、途中甲府では未だしっかり雪が残っていて先月の降雪の多さを思わせる。寧ろ松本周辺では殆ど積雪はなかったが、風花が舞っていてそれが豊科を過ぎるころに本格的な雪になった。
◆雪の信濃大町着、腹ごしらえは峠を一つ越えた新行の名物そばで
★11時07分、列車は6分遅れで信濃大町着、朝重さんの出迎えを受ける。取り敢えず何処かで昼食だが、「山本さんは相当におそばが好きそうだから」と峠を一つ越えてそば畑のある中山高原の先、美麻村新行のそば屋「美郷」へ案内してもらった。
★地粉、石臼挽き、手打ちを売り物に40年というこの店、先ず野沢菜づけとそば湯羊羹でお茶、ざるそばは(大盛りは量にご注意とあるのでふつう盛だが)たっぷりの量で素朴なしっかりした味、薄く焼いたそば餅の上にそば味噌を乗せたもの、更にそばがき、これだけまとめて700円也は安い、同経営の隣の種山商店ではそば粉のほかに自家製のそば焼酎、蜂蜜などを売っている、この辺りは戸隠か新行かといわれるくらいそば以外の作物は何も取れなかった所だという。
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雪の美麻・新行
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◆ホテル着、足慣らしに山かんじき、スノーシューを装着して高瀬川へ
★激しく雪の舞う中、車で20分走って「くろよんロイヤルホテル」到着、荷物を置き、身支度をして明日の本番に備えての足慣らしに出かける。行先は高瀬川の上流、葛温泉の手前、仙人岩付近、車から降りたところで皆は山かんじき、私は持参したスノーシューを装着、河原へ下りる。河原への急斜面は山かんじきの方が有利、スノーシューは長さが邪魔で斜めに下りるしかない。高瀬川の流れを見て戻ったところに巨大な仙人岩があった、これはその昔鹿島槍方面から転がり落ちてきたもので、元から川にあったものではないらしい。
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高瀬川
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仙人岩
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★ひとしきり河原歩きで足慣らしをしたが、雪も止まないので少し早目ながらホテルに引き上げてゆっくり風呂に入る。この風呂は大浴槽のほかに檜風呂、下には露天風呂もあって楽しめる。
◆塩尻の「五一ワイン」の当地限定「日向山」とフランス料理で前夜祭
★夕食はフランス料理、このホテルのある場所は日向山と言って893mの高原地帯だが、塩尻の「五一ワイン」に当地限定の「日向山」という銘柄がありこの一本を皮切りにして次は単品種のマスカットベリーA、料理では噂に聞いていた信州サーモンのマリネはワインにぴったり、真鯛のポワレや牛フィレ肉のグリルも良かった。
★この時期客は少なく我等のほかに1組だけ、我等が盛り上がっていたら、シェフが出てきてカマンベール、パルミジャーノ、ゴーダのチーズセットをサービスしてくれてこれに合わせたグラスワインなども、更にはこれも試してと黒部の氷筍水仕込み原酒、これで完全に出来上がり、部屋に帰るのもやっとこさの始末だった。
★今回の天気予報では今日明日は雪、明後日午前中のみ晴れだったので、明日の北アルプスの景観は絶望と半ば諦めたことがこの一寸した飲み過ぎを誘ったのかもしれない。処が、何と翌朝目覚めてみると快晴、光に満ち溢れているではないか。窓から幾筋も下がっているツララ越しに七倉岳2,509mの上部が白く輝いて見える。
◆翌朝は好天に恵まれ、黒沢尾根歩きの起点、鹿島槍スキー場着
★3日間の滞在で中日の今日の天候が最も重要で、若し今日悪ければ無理をしてでも明日の半日に賭けるしかなかったが、時間的に充分余裕がある今日の好天は全くラッキーだった。朝重さんも予定通り事が運べるので安心したことだろう、8時40分にホテルを出発、爺が岳スキー場の前を過ぎて9時にはサン・アルピナ鹿島槍スキー場の駐車場1,130mに到着した。
★幾つものゲレンデに取り巻かれた中心にあるセントラルステーションで第1クワッドリフトが動き出すのを待つ。このリフトがメインリフトで周りのリフトはすでに動いていてスキーヤーやボーダーたちが何人も滑走を楽しんでいた。目線を上げれば遥か遠くに爺・鹿島槍の稜線が白銀の輝きを見せている。
★9時半、3人乗りだが2人組で標高差100m、距離にして約1,000mを上り、そこから左へ回り込んで第10ペアリフトまではツボ足で歩く。去年もそうだったがここからは急傾斜になるため安全確認が念入りに行われ、なかなかゴーサインが出ない。我等の後ろにいた格好いい青年スキーヤーは新しい深雪用の幅広スキーを履き、かぶったヘルメットの上にはカメラを装着、滑走しながら撮影するらしい。池田町から来たとかで、この辺りには何度も足を運び自分の庭のようにしているという。
★30分待ってパトロールのスキーヤー2人が先頭のリフトで発進、我等は1人づつで上る、今度の方が距離は短いが標高差は倍のほぼ200m、滑車の回る音とロープの擦れる音だけの奇妙な静寂の世界が続く。終点到着以前に、もうパトロールスキーヤーは真下のゲレンデを滑走して下って行った。
◆メインリフトで最高点まで上がり、尾根歩き開始
★この終点が鹿島槍スキー場の最高点1,510mでスキーヤー、ボーダー達はここからセントラルステーション目指して滑走していく。我等はここで山かんじき、スノーシューを装着して更に上のピークを目指す。最終目的のピークとの標高差は100mほどしかないが、途中上り下りを繰り返して黒沢尾根を歩くので累積標高差は当然拡大するし、昨日から降り積もった新雪のラッセルは相当のアルバイトを強いられることになるだろう。
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ラスト第3ピークの登り |
第10ペアリフト
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第10ペアリフト
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頭にカメラ装着の
スキーヤー
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ピーク目指して |
安曇野を見下ろす
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★尾根はほぼ南北に連なり、西側へは緩やかな斜面だが東側は鋭く落ち込んでいて特に雪庇には注意しなければならない。第1のピーク1,546mは左へ巻いて行くこともできるが、スタートしたばかりの元気さで直登し北側へ乗越していく、ふかふかした新雪は寧ろ足に心地よい。
★暫く疎林の中を行き、絶対に右側に寄れない危険な雪庇地帯を過ぎてやがて第2のピーク1,550mに到達。此処からの鹿島槍・爺の眺めは十分に素晴らしい、南には安曇野の平野が広がり、右直下には林越しに青木湖の青く澄んだ湖面が見て取れる。再び下って疎林を行き左へ大きく回り込むと最後の急斜面、お椀を伏せたようなピークなので一番最後はがむしゃらによじ登らねばならない。
◆1,599ピークで360度の眺望を満喫
★11時25分、標高がその名になっている1,599ピーク登頂、360度の眺望、特に正面、目の前に迫る鹿島槍ヶ岳2,889m、左に爺が岳2,670mが白く雪化粧して厳然と屹立する姿は見飽きることがない。右側には五竜岳2,814mへつながる遠見尾根が続き、東には遠く妙高、戸隠の山々が見える。
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疎林を行く |
直下に青木湖
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第2ピーク |
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一休み |
妙高方面 |
雪庇 |
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鹿島槍ヶ岳
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爺が岳 |
爺が岳 |
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★此処は風の強い時が多く、その際は南側に避難しなければならないが、今日は殆ど無風快晴なのでパノラマを満喫しながら朝重さんが用意してきてくれたお弁当を頂く、これが又大変豪華なお弁当で多彩な内容は勿論、保温した温かいお弁当だったので真に申し訳ない気がした。
◆2人が雪庇を踏み抜き、大穴を開ける
★景色も味も十分に楽しんで13時出発、リフトの終点付近まではほぼ同じコースを歩いたが、雪庇危険個所ではしっかり安全サイドを歩いた筈なのに2人が踏み抜いて大穴を開けてしまった。雪庇の付け根は予測よりずっと内側に入り込んでいた訳で、 幸い全体が崩落することなく大事には至らなかったが油断は禁物、緊張感を持って行動しなければいけない。
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雪庇を踏み抜く |
冬芽
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枝の影絵 |
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塩の道「ちょうじや」 |
朝のオムレツ |
カモシカの落し物
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★1,510mリフト終点の手前から右の谷へ入るとブナの大木など木々が多くなり熊ダナなどを見かけるようになる、気温が上がってきたせいかだんだん雪が重く感じるようになってきた。傾斜が急な所では尻を雪面に付けて一気に滑り降りるのが楽だし楽しいのだが、新雪が股の間にたまって上手く滑ってくれない。かといって立って降りると急傾斜に足を取られて転倒する。一旦転倒すると体の向きと傾斜の角度を考えないと中々上手く起き上がれない。傾斜がゆるくなる林道付近まで全員がかなり消耗した。
★セントラルステーションが見下ろせる第3クワッドリフトの上を右に巻いて16時20分に駐車場、下りに3時間以上かかってしまったが何と言っても今日のお天気は最高だった。
◆信濃大町の評判のうどん屋で氷結ビールと黒豚鍋焼き味噌煮込みうどん
★ホテルに帰ってゆっくり風呂につかり疲れを癒してから夕食は信濃大町の塩の道博物館「ちょうじや」に近い評判のうどん屋「まつや」に連れて行ってもらった。先ず生ビールを注文したら驚いたことに氷結ビールでシャーベット状になっていてこれでは一気にはとても飲めない。メインの黒豚鍋焼き味噌煮込みうどんは量もたっぷり味も良くて満足。夜8時ともなると町の明かりは静かにしっとりとしていた。
★最終日の朝、バイキングの朝食を採っていたらフランス料理のシェフが出てきて我等にオムレツを作ってあげるという、小ぶりながらトリュフのソースがかかった絶品、えらく気に入られたものだがさて来年はどうしたものか。
★15時05分のあずさ26号には是非とも乗らねばならないし、昨日は又とない素晴らしい日を過ごせたし、天気も春めいて、もやってるので昼前までホテル裏のゴルフコースを軽く歩いてお仕舞にすることにした。雪は溶けかかって夜又凍っているので表面はカリッとしている、このコースにはカモシカの生息地があり、何日か体を横たえた跡やまとめて糞をしたところ等が見られる。又小動物の足跡はその形によって種類や方向、その時の状態(獲物を追っているかなど)を推測できる。
◆池田町の「安曇野・翁」のそばで仕上げ、帰京
★午後は池田町にある「安曇野・翁」(そば打ち名人高橋邦弘氏の弟子の店)でおそばを食べてから昨夜通りかかった塩の道博物館や山岳博物館を見ることにしていたが、朝重さんの車の故障でおそばだけにとどまってしまったのは又来なさいということか。今回は3日間で雪、太陽、春霞と3様のお天気を味わう旅になった。 (2014.3.15.記)
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