◆キナバル山は4千米を越す東南アジア随一の高峰
★ボルネオという島は幼い頃愛読した「冒険ダン吉」活躍の舞台のイメージがある。世界で3番目に大きい島で日本の約2倍というが、地図上では赤道真近にあるためにそんなに大きくは表示されていない。サバ州のキナバル山は4千米を越す東南アジア随一の高峰で、マレーシアでは最も早く世界自然遺産となった名峰でもある。キナバル山行の詳報は既に何人もの方から為されているので、今回はランダムに思い付くままを綴って見ることにした。
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明け方のキナバル山 |
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◆ボルネオ(ブルネイ)、インドネシア語ではカリマンタン
★先ずボルネオという名前は、今は一握りの小国ながらとてつもない大金持ちの国で、かつては島の北半分を占めた「ブルネイ」王国が訛って英語でボルネオとなったのだが、インドネシア語ではカリマンタンと呼ばれている。
★日本とボルネオの係わりについて、古い昔のことはわからないが、既に明治時代には島の北東側サンダカンを中心としてゴム園、椰子園、南洋材の仕事にかなりの数の日本人が従事していたようで、天草方面からの「からゆきさん(唐行きさん)」の話は山崎朋子著の「サンダカン八番娼館」に詳述されている。
◆サンダカンと「からゆきさん」
★からゆきさんは国の恥として大正末期に全員引き上げさせられたが、サンダカンでは日本軍占領下の第二次大戦末期、悲惨な事件が起きている。日本軍はオーストラリア兵とイギリス兵捕虜を使い、空港を建設したものの連合軍の空爆によって直ぐに使用不能となり、その後作業をさせた大人数の捕虜の扱いをもてあまして全員をキナバル山麓のラナウに移動したが、延々9ヶ月をかけて移動を終了した時には当初の2400名中残ったのは僅かに6名だった。サンダカンの戦争記念公園にはこの「死の行進」の記憶を留める碑が建てられている。
★ラナウはキナバル山のマシラウ・ルートの登山口に近いが、北方18kmスグット川の上流に日本軍が発掘したポーリン温泉(現地語で竹の意)という露天風呂がある。日本軍がボルネオを占領したのは1942年から1945年の約4年間だがサンダカンの真西にあった海軍基地のジェッセルトンも連合軍の空爆によって壊滅、戦後の復興を待って、1968年名前もコタキナバル(キナバルの街)と変更しサバ州の首都となった。
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サバ州の地図 |
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◆「アキ・ナバル」(先祖の霊が眠る所)
★キナバル山はこの街の何処からでも仰ぎ見ることが出来る巨大な山塊で、その意味はキナが中国、バルが未亡人という説もあるようだが、現地のカダザンドウスン族が「アキ・ナバル」先祖の霊が眠る所として崇めていることの方が本来の意味と信じたい。
★ここでキナバル山、初登頂の話に触れてみたい。山頂4095.2mの名称はロウズピークというが、恥ずかしながら私は当初、これは薔薇の峰の意かと思っていたがさにあらず、ロウのピーク、つまり人名であった。然しインターネットを開いてみると、この頂上の名称は初登頂者の名前を採って名付けられたと思っている人が意外に多い。
◆ローズピークの名の由来
★1851年イギリス人ヒュー・ロウ(Hue・Low)は初登頂を目指したが失敗、数年後に又失敗、3回目にセントジョーンと山頂を目指すが、セントジョーンのみが最高点と思い込んで到達したピークは僅かに5m及ばない4090mのピークで現在セントジョーンズピークと呼ばれている。この山のことを知らない人は何でそんな馬鹿な間違いがと思われるかもしれないが、花崗岩の氷河侵食によって出来た広大な頂上台地には4000mを越えるピークが林立しており、最高点を間違ったとしても不思議はない。
★このとてつもないでかさの花崗岩の大岩塊はサヤサヤ小屋から遥か頂上まで続いており、道はなく唯白いロープが岩面に貼り付けてある。これは、靄が立ち込めて方向を見失うことの多いこの地域での方向指示ロープで、お世話にならずに済む好天続きは少ないと言う。
★キナバル山の初登頂はそれから30年余り経った1881年、ジョンホワイトヘッド調査隊によって達成されたが、4095.2mの頂上の名称は先駆者に敬意を表してロウズピーク(ヒュー・ロウのピーク)と名付けられた。なんとも英国紳士らしさのこもった奥ゆかしい話と感心したことでした。
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ロウズピーク |
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頂上標識 |
眼下にサヤサヤ・ハット |
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ガンティンラガダン・ハット |
夕景 |
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◆原住民の初登頂者ガンティンラガダンの標識
★ついでながら、この狭い頂上にはロウズピークの標識に並んでこの調査隊の一員だったと思われるカダザンドウスン族の初登頂者ガンティンラガダンの標識が立っている。彼の名前は登山者の殆んどの人が宿泊するラバンラタ小屋3272mより約50m上にある小屋の名前にもなっている。先ほども触れたように3800mから上の頂上台地にはキナバル槍と呼ばれるサウスピーク(南峰)から始まってピークが林立しているが、ピークのそれぞれに名前が付けられている。
★ビクトリア、キングジョージ、セントアンドリュース、アレクサンドラ等英国の人名地名の他その形からアグリーシスターズ(醜い姉妹)、マッシュルーム、中でも有名なドンキーイヤーズ(ロバの耳)などであるが、これらは全て英語名、途中の小屋の名称がラバンラタ、サヤサヤ、グンティンラガダン、ワラスなど現地語が多いのとは好対照、ところがロウズピークを取り巻く4000m級ピークの中に「オヤユビ」「ツクシ」というのがあり、これは明らかに日本語であるとしか考えられない。誰が何時つけた名前かわからないが、どなたかご存知の方が居られたらお教え願いたい。
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ティンポホンゲイト |
第2シェルター |
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急登 |
ラバンラタ・レストハウス |
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◆約300円で登頂証明書がもらえる
★キナバル登山者は10リンギット(約300円)を支払えば誰でも登頂証明書の交付を受けることが出来る。厚手の紙にキナバルの植物、鳥がカラフルに印刷されていてパークワーデン(公園管理者)とガイドの署名がある立派なもので、私も下山後ガイドのパビアンから手渡されたが、実はこの登頂の確認は頂上に最も近いサヤサヤ小屋(3668m)通過の際、登山口で各人に交付されたIDカードの提示によってされるので、頂上を踏まなくてもサヤサヤ小屋さえクリヤすれば登頂したと見做されることになる。
★この証明書には右肩に番号が刻印されているがこれは1990年以来の通し番号で、私の番号はNo.133200であるから17年間を単純平均すると年間7835人登頂したことになる。然し、当然ユネスコの世界遺産登録2000年以降登山者が急増している訳で、現在はキナバル公園訪問者年間約20万人の内、10%が登山者と見られている。
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登頂証明書 |
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◆7つのシェルター(休憩所)には花の名前が
★今回キナバル山を目指すに先立って周辺の登頂経験者に色々話を聞かせてもらったが、きつかったとか辛かったという話は殆んどないので、むしろ熱帯気候の30数度から頂上付近の10度以下までの気温の変化が最も気にかかっていたのだが4000mを越す登りがきつくない筈がない。
★唯、大変登り易く感じられるのは登山道が良く整備されていることと、登山口のティンポホンゲイト1889mから頂上アタックの拠点となるラバンラタ・ゲストハウス3272mまで適度に休憩が取れるよう7つのシェルターが設けられていることだ。シェルターにはポンドック・カンディス、ポンドック・ウバなど、このあたりに咲く花の名前が付けられている。
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朝焼けの岩壁 |
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岩壁に取り付く |
ロープに沿って |
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ドンキーイヤーズピーク |
キナバル槍(南峰) |
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荷をデポして頂上へ |
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◆巨大なウツボカズラに出逢う
★さすがに南国で日本ではお目にかかれない花や植物が多いが、特に目を引いたのは第5シェルターラヤンラヤン2702m周辺の巨大な「うつぼかずら」だった。森林限界は3600mと日本では信じられない高さだが、気をつけなければならないのは3000mを越してラバンラタ小屋に着くあたりから多かれ少なかれ影響が出始める高度障害だ。
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巨大なウツボカズラ |
岩壁の紅花 |
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全員登頂 |
キナバル山 |
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山頂標識と筆者 |
山頂直下でメモを取る筆者 |
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★この対策の一番はとにかくゆっくり歩くこと、水分をちゃんと採ってきつくなれば立ち止まって深く呼吸すること、などで急いでガンガン登るのは最もいけない。ところがこの山には「クライマソン」という国際登山レースが世界遺産登録の2000年以来毎年行われており、今年は第20回の記念大会を迎える。
★クライマソンは登山のクライムとマラソンの合成語で、登山口のティンポホンゲート1866mから山頂ロウズピーク4095mまで標高差2229mを一気に駆け上り、駆け下る世界で最も厳しい山岳レースの一つとされている。参加人員は公園法の入山制限により150名に限定されており、地元ドウスン族の山岳ガイドが多いのは当然だが、日本も参加枠30名を貰っていて毎年挑戦している。
◆韋駄天登山レースの覇者には「スカイランナー」の尊称
★昨年はメキシコのリカルドが連覇、優勝タイムは2時間50分52秒、我等は当然のことながら高山病対策上途中で休憩したり泊ったりするが、頂上までの歩行時間のみの集計14時間に比べるとこれは正に飛ぶが如くであり、参加アスリートに与えられる「スカイランナー」の尊称も成る程とうなずける。
★惜しかったのは日本の山岳ランナー横山忠男がドウスン族ランナーの2. 3位に続いて4位に入ったことで、タイムも2時間54分02秒と3時間を切る立派なものだった。惜しかったという意味は、ティンポホンゲート横の掲示板には3位までの名前と所要時間が1年間掲示されることになっており、日本人横山の名前は僅かに及ばず、見られなかったことだ。
◆南国の花に飾られた「キナバル山の町」コタキナバル
★コタキナバルはその名の通り「キナバル山の町」には違いないが、南国の花に飾られた美しい町で、キナバル山のみならず潤沢なリゾートの要素をふんだんに持っており、特にダイビングや島巡りクルーズなど、透明度の高い海ならではの楽しみは中々他所では味わえないものだ。又、時間の余裕があれば熱帯雨林ウォーキングやオランウータン・サンクチュアリー訪問、ゴルフの施設も整っている。
★更に、食べる楽しみもバナナの葉に盛り付けた各種カレー、椰子蟹、海老、イカ、貝類などの海産物、ドリアン、モンキーバナナを始めとする豊富な果物等々非日常の楽しみに溢れている。同行の山の仲間からも、山に登らないでもこの街でのんびり過ごしてみたいとの声があがったほどだった。
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登頂証明書を授与される筆者 |
民族楽器の演奏 |
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花 |
花 |
花 |
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花 |
花 |
モンキーバナナ |
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イセエビ |
ヤシガニ |
ドリアン |
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◆右手を胸に微笑みの挨拶をするホテル従業員
★宿泊したビ−チリゾートホテル、シャングリ・ラ・タンジュン・アル・リゾートは岬に沿った広大な敷地を持つ素晴らしいホテルだが、最も心に残ったのは、すれ違う従業員が等しく右手を胸に当て、微笑みながら会釈をする優しさのこもった挨拶だった。
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シャングリ・ラ・タンジュン・アル・リゾート |
ホテルの岬 |
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ホテルのプール |
船着場 |
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島巡りへ |
船中 |
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魚群 |
水上パラシュート |
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バナナの葉皿カレー |
夜のコタ・キナバル |
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★今回、天候にも恵まれて東南アジアの名峰キナバル山にメンバー9名全員が登頂できたのは終始細々とアテンドして頂いた「天渓」赤沼敏治さんのお陰と感謝しています。
(2007/03/2007キナバル山登頂 山本浩 記)
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