★全国に十一面観音は100ばかりあるといわれますが、国宝は七体しかなく、しかも近畿地方の奈良・大阪・京都・滋賀の4府県に限られているのです。また、通常は拝観できず、12年に一回のみの公開という寺もあって、本当に貴重な機会でした。
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聖林寺像 |
向源寺像 |
室生寺像 |
法華寺像(木造) |
法華寺像 |
道明寺像 |
(国宝十一面観音像 wikipediaより転借)
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★十一面観音は、頭上に11の顔、または本体の顔をいれて11の顔を持つ不思議な姿をしています。これは衆生の苦しみを早く見出し、救済するためといわれます。もともとインドで生まれた菩薩であって、古代インドの土着信仰である荒ぶる神やバラモン教を取り込み、その他の神々とも融合していろいろな菩薩が生まれました。白洲正子は、十一面観音と水との関係に注目し、室生寺では近くの龍穴神社、東大寺二月堂ではお水取りとの関係をとりあげています。
★十一面観音は、奈良時代に日本にもたらされ、平安時代以降多くの像が作られましたが、女性的な雰囲気を持った像が多くみられます。多くの場合、頭上に理想の境地としての如来像を戴き、その周りに慈悲相・瞋怒(しんぬ)相・狗牙(くげ)上出相が3面づつ、そして真後ろに暴悪大笑相があります。如来になっていない菩薩ですから、親しみやすい仏といえるでしょう。
(注) 文中に、白洲正子・西上原三千代・関根俊一の各氏の文章や資料を一部引用または参照しておりますことを予めお断りいたします。また、すべての十一面観音が撮影禁止になっているため、本尊については、クラブツーリズム「グラビータ」誌上の写真を転載しております。なお、六波羅蜜寺については、完全秘仏のため、本尊の写真はありません。
★一日目に最初に訪れたのは室生寺です。女人高野といわれるこの寺は、大阪勤務当時から10回ほど訪れた懐かしい寺ですが、新しく大駐車場ができていたほかは余り変わりがありませんでした。先ず本堂を訪れ、十一面観音を拝観しました。平安初期の作で高さ196センチ、本当に均整がとれ、平安の少女のような愛くるしさがあります。ただ一面やや硬い雰囲気もあります。私としては本当に好きな観音さまです。
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室生寺像 |
室生寺五重塔 |
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★白洲正子は「天平の夢が醒めるときが来た。醒めることの苦悩と緊張を、この観音は身をもって示している」といっています。
★続いて、五重塔を拝観しました。16メートルの高さで、全国で最も低い五重塔ですが、数年前の台風による倒木の被害も見事に修復され、愛らしい素晴らしい姿を見せてくれました。ここから、思い切って「奥の院」まで登ってみました。ここはかなりきつい道程で、今まで行ったことがありませんでした。急坂を登り降りして、やっと辿り着いた達成感は素晴らしいものでした。
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◆聖林寺十一面観音(奈良県)
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★その後、聖林寺を訪れました。高台にあり、飛鳥の地が素晴らしく見渡せて、本当に感動的な立地です。フェノロサや和辻哲郎によって絶賛された十一面観音は、奈良時代の作で209センチ。本当に均整がとれ、量感に満ち、手は微妙な表情を見せて、今にも動き出しそうな気配を感じさせます。しばらく呆然と拝み続けていました。
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聖林寺像 |
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★白洲正子は「世の中に、こんな美しいものがあるのかと、ただ呆然とみとれていた」といっています。その通りだと思います。
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★第一日目はこれで橿原市のホテルに入り、帝塚山大学の関根教授による「十一面観音の歴史と見方」と題する講義を受けました。スライドを使用した分かりやすい講義で、大変好評でした。
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◆法華寺十一面観音(奈良県)
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★第二日目は、先ず法華寺の十一面観音を拝観しました。久しぶりの対面です。光明皇后の姿を模したものといわれ、カヤの一木造りで、唇や目に一部彩色が残っています。右足が少し先に出て、今にも歩き出しそうな雰囲気です。平安時代の作といわれ、高さ1メートルです。境内には、光明皇后が病人を介抱したと言う「から風呂」や庭園もあり、見所は多いです。
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法華寺像 |
法華寺本堂 |
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★白洲正子は、「やや腰をひねって歩みだそうとする気配は、水の上を逍遥するといった風情である」といっています。
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◆観音寺十一面観音(京都府)
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★観音寺は同志社等の学園都市の近くにあり、予想したよりもささやかな寺でした。同じ天平時代作の聖林寺の像と本当に良く似ていますが、やや若々しく緊張感に満ちており、一方華やかな雰囲気も持っています。奈良時代の作で像高172センチです。観音寺は、かつて興福寺の別院であったようです。ここで売られている「絵解き般若心経」は、字を読めない人々に好評だったようですが、大変ユニークで面白いものです。
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観音寺像 |
観音寺山門 |
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★白洲正子は、「私が想像したよりはるかに美しく、神々しいお姿であった」と評してします。
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◆道明寺十一面観音(大阪府)
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★道明寺は、菅原道真の祖先にあたる土師氏の氏寺として平安時代に建立されたもので、像高98センチの十一面観音は道真の作であるという伝承があります。檜の一木造で、彩色等はなされず、木肌を生かした造りです。均整がとれた端正な姿には、唐風の様式が色濃く残っています。ここでは、道明寺最中が販売されており、早速購入しました。
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道明寺像 |
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★白洲正子は、「技術的に完璧すぎて、一分のスキも無い彫刻」と評しています。
★二日目の日程はこれで終わり、大阪市内のホテルに宿泊し、夜は大阪に単身赴任している銀行員の息子と、久しぶりに夕食を楽しみました。
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◆六波羅蜜寺十一面観音(京都府)
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★三日目は、観光客であふれている清水寺に間近い六波羅蜜寺です。ここは空也上人が平安中期に創建したもので、十一面観音は本尊です。しかし、12年に一回だけ開帳される秘仏で、今年が開帳の年のため得がたい機会でした。258センチの巨像でありながら一木造で、堂々とした姿に温和な表情を持ち、全身からほのかな光を放っているように思われました。しかし、完全な秘仏のため、パンフレットや本等にも写真の掲載はなく、頭の中の記憶のみが頼りです。
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六波羅蜜寺・本堂 |
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★白洲正子は、「空也が感得した生身の観世音を、再現したものに相違ない」と言っております。
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◆向源寺(渡岸寺)十一面観音(滋賀県)
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★いよいよ最後の観音さまです。ここ湖北地方は十一面観音の里として知られていますが、その中でもこの寺の観音さまは、日本屈指の傑作といわれる美佛です。井上靖の作品「星と祭」等にも取り上げられています。平安初期の作で194センチ、村人たちの尊崇を集め、戦国時代には土中に埋めて戦火を免れたといいます。2面を本面の左右に大きく配した表現が特徴で、腰をひねり、右足を軽く踏み出した姿は魅惑的ですらあります。仏さまの周囲を何回も拝んで回り、心行くまで鑑賞しました。
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向源寺像 |
向源寺本堂 |
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★白洲正子は、「湖水の上を渡るそよ風のように、優しく、なよやかなその姿」と表現しています。
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◆終わりに
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★今回の旅は、通常の観光旅行ではなく、テーマをしっかり持った、一味違う旅でした。大学教授の講義や車中の解説も適切で、十一面観音の理解に大変役に立ちました。個人でこれだけ周るのは、地理的・時間的にも大変困難であり、効率の面でも良かったと思います。今後も、このような「テーマのある仏像関係の旅」の企画があれば是非参加したいものです。
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