いなほ随想

春の宵名画の余韻抱きつつ
〜市川昆監督の映画「野火」と「細雪」を観て〜

藤田昌煕(38文)

懐かしい映画を観てきました。大岡昇平の「野火」と、谷崎潤一郎の「細雪」。いずれも市川崑監督作品です。暗い戦記物と、戦前の華麗な大阪船場の四姉妹の物語。これ以上あり得ないほど中身の違った映画でしたが、市川崑監督の幅の広さを思い知らされました。

市川昆監督

★「細雪」の四姉妹、岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子はいいですねぇ。特に、岸恵子は気品があり、こういう女優はもう今いませんね。この映画、二度目ですが、新しい発見が幾つかありました。

映画「細雪」

 
★お花見の場面でバックに流れるヘンデルのラルゴ、これがじつに効果的でした。箕面の紅葉狩りの場面。なるほど、関西では箕面に出掛けたのですね。それにしても戦前、終戦間際のあの食うや食わずの頃、お見合いで嵐山や箕面に出掛け、吉兆などで会食していた”人種”がいたとは・・・!

★「野火」は、原作は読んでいましたが、映画は初めて。予想どおり(いや、予想以上)、凄惨な場面の連続でした。但し、映画は暗いが、観客の反応が印象的でした。

映画「野火」のポスター


★映画が終ったあと、「俺はガダルカナルの生き残りだが、この映画どおりだった」「私の父親もフィリピンで戦死しました」…そんな会話が周囲から聞こえてきました。戦地に赴いた人、留守家族にとっては、戦後67年経った今も戦争はまだ終わっていないことが分かりました。 

いい映画を観ると、人生得をした感じになります。(2012.2月記)

春の宵名画の余韻抱きつつ (昌)

     

♪BGM:E.Stie[Je te veux]Arranged by Reinmusik♪

表紙へ いなほ随想
目  次