いなほ随想
電子書籍と出版界の動向
〜勉強会講演記録から〜

電子書籍用リーダー


★小平稲門会会員の藤田昌煕さん(38文)が故郷福知山の高校同窓生で作っている在京同窓会「知福二金の会」(12月例会)の勉強会報告を「藤田メール」で送ってくれました。同窓会メンバーで出版事情に詳しい社団法人日本書籍出版協会専務理事、山下正さんによる表題の講演「電子書籍と出版界の動向」は、時宜を得たテーマであり、「小平稲門会の皆さんも興味ある話題」と判断、藤田さんの許諾を得て、当コーナーでご紹介することにしました。 
(2011.12.24.ホームページ管理人 松谷富彦)

★「知福二金の会」勉強会。12月の講師は、わが同期 第11回卒生の山下正氏。テーマは、「電子書籍と出版界の動向」。じつは今回、山下氏に講義をお願いしたものの、果たしてこのテーマで皆さんが聴きに来て頂けるかと心配でした。ところが心配は全くの杞憂に終わり、大勢の方にご出席頂き、嬉しいかぎりでした。その上、いつもより女性会員の出席が多く、最近の女性の向学心の旺盛さに感動した次第です。

★いま一つの心配は、講師山下君の多忙なスケジュール。いつも忙しい山下君だが、12月は超過密スケジュール。果たして時間どおり会場に来てくれるかと心配していましたが、さすが“出版界のドン”、講義時間前に遅れず来てくれました。但し、聞いてみると、「今週は月曜から毎晩“忘年会”で、もうフラフラ」とのこと。これでちゃんと講義が出来るか心配になりましたが、始まってみると講義は明快、且つ分かり易く、まさに“名講義”。お蔭で私の心配事は全て杞憂に終わり、あとの“二次会”では美味しいビールにありつくことができました。

★早速本題の講義リポートをご披露させていただきます。(藤田昌煕 記)



講演要旨
講師 山下正氏

@出版業界の現況・・・2011年の販売概況

・出版社は現在3979社。今や“不況業種”指定を受けているが、意外に倒産は少ない。但し、これは規模の小さい企業が多く、社歴がながくビルなど不動産収入がある出版社が多いからで、本業は楽観視できない。

・出版業界の総売上高は、2010年現在1兆8748億円(書籍8212億円、雑誌1兆536億円)。推定販売部数は、29億冊(書籍7億冊、雑誌22億冊)。


A出版業界の現況・・・市場規模の推移


・市場規模は、1996年の2兆6564億円をピークに29%減少。この傾向はまだ止まらない。


B電子書籍の現況…市場規模の推移

・市場規模は、2009年で574億円(内ケータイ513億円、PC55億円)。内訳は、コミック457億円、文藝62億円、写真集49億円。これが2010年には650億円(内コミック570億円、スマートフォン24億円)と増加。2015年には、総売上高2200億円に増える見通しである。但し、電子書籍の伸びは、アメリカに比べるとまだまだ低い。


C電子書籍への出版社の対応

・各出版社は「電子書籍」に積極的に対応しつつあるが、「著作権問題」など未解決の課題が多く、十分とはいえない。


D「出版デジタル機構」の設立

・そこで最近、出版主要20社で「出版デジタル機構」を設立。本格的に電子書籍への対応を始めており、今後大きな発展が期待されている。

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以上、出版業界の現況、「電子書籍」に対する取り組み状況の説明があった後、質疑応答に移り、皆さんから様々な角度から質問があり、興味深い議論が展開されたが、その中から興味深い質疑を以下にご紹介します。(藤田)

Q,何故、わが国ではアメリカに比べ「電子書籍」が伸びないのか?

一番の原因は「電子書籍」を取り巻く法制(著作権など)がまだまだ不備なこと。また、わが国ではアメリカと異なり、本屋さんが多く、その保護が重要。但し、「出版デジタル機構」が出来、今後法制が整備されていけば、「電子書籍」も増えていくと思われる。

Q.「電子書籍」の価格は?

アメリカでは大幅に価格を下げ、市場の伸びが著しい(推定1350億円)。但し、我が国ではアメリカとは市場環境が異なり、大幅な値下げは難しいかも・・。価格を決めるのはそれぞれの出版社の個別の判断であり、著者の意向もあり、価格決定の方法は多様。

Q.「資源保護」の観点から見て「電子化」を積極的に推進すべきでは?

たしかに本は紙から出来ており、「電子化」による資源(森林)保護の効果は大きく、書籍の在庫負担も減り、この面からの効果も大きい。政府も「デジタル出版」への援助を打ち出している。但し、読者にとって”紙の本”への愛着はまだまだ大きく、一挙に「電子書籍」にとって替わることはなく、今後は両者が併用されていくと考えられる。

Q.「著作権」はどうなるか?

これが今一番の課題であり、既に”自炊業者”(本を勝手にスキャンして販売)が急速に増え(現在100社)、問題を起こしている。「著作権」に関しては、すでにテレビや音楽部門では確立しており、「電子書籍」の出現を機会に出版業界でも「著作権、および隣接権」の確立に本格的に取り組みつつある。

Q.今後「再販制度」はどうなる?

「再販制度」(本の定価維持制度)は問題も多いが、小さい書店のことを考えると、やはり、維持していくしかない。但し、「電子書籍」の伸びもあり、市場環境も変化しつつあるので、これまでどおりにはゆかず、柔軟な対応も必要。

Q.「電子書籍」・・・IPad、IPhone、スマートフォンをどう使う?

わが国ではまだまだ「電子書籍」のストックが少なく、アメリカのように普及していないが、今後「著作権問題」も解決し、中身が充実すれば、”電子書籍”も飛躍的に伸びると思われる。もちろん、”紙の本”に対する愛着は残りますが、「字が大きくなる」、「どこでも読める」、「収納に悩まなくていい」・・・などメリットも多く、「電子書籍」は慣れればむしろ中高年に最適かも知れない。


[講師、山下 正さんからのメール]

●現時点で電子出版が拡大しているのはアメリカだけです。

★例会レポート、早速におまとめいただき、有難うございました。但し、小生の説明不足ですが、電子出版が拡大しているのはアメリカだけで、ヨーロッパは日本よりも後発で、進んでいません。したがって、「欧米」の記述が2箇所ありますが、それは「米」とし、「欧」は削除です。この報告では、欧州は対象外です。

★また、電子書籍の価格設定については、「わが国は決まっていない」とありますが、価格を決めるのは、それぞれの出版社の個別の判断です。著者の意向もあるでしょうし、価格決定の方法は多様です。以上。あとは過分なお褒めをいただき恐縮致しております。(山下 正)

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